ウソつきより愛をこめて
このセリフを聞いたのが、もしも二年前だったなら。
私は泣いて喜びながら、彼のことを受け入れたかもしれない。
「だから俺は、他の女なんかいらない。飯だって寧々の顔を見ながら食ったほうが、どんな高い料理よりもうまく感じる」
今はあの時の状況とは全く違う。
橘マネージャーが欲しいのは、私じゃなくて“寧々”だってはっきりわかるから。
子供のために結婚しようと言われることがこんなに惨めなことだとは、想像すらしていなかった。
「ごめんなさい…」
必死で言葉を紡いだ私の目に、橘マネージャーの肩が少し揺れるのが映り込む。
「結婚するなら、…ちゃんと自分が心から好きになった人としたいの」
全部誤算だった。
寧々がこんなにも、橘マネージャーに懐いてしまったこと。
彼もまた、好きでもなんでもない女と結婚したいと思えるほど、寧々を心底大事に思ってしまっていること。
嘘をついていたことを話したら、彼はもう一生私を許さないだろう。
間違いなくこれからの仕事に影響が出るレベルだ。
ヘルプが終わるまでは、どうせもう本当のことなんて話せそうにない。
だから彼がどんなに結婚を求めても、突き放すしか私には選択肢がないんだ。
「お前…好きな奴…、いるのか」
聞こえてきた地を這うような低い声に、思わず身体が竦んだ。
「……」
その突き刺さるような視線が、運転席から私の方に降り注いでくる。
「お前に好きな奴がいようがいまいが、俺は諦めるつもりなんてないから」