ウソつきより愛をこめて
「…いつから聞いてたの」
「あの女が俺と一緒のシフトに変えろって、お前に強請ってたあたり」
「ふぅん…」
いつもとは違う上等なスーツに身を包んだ橘マネージャーが、真剣な顔でしゃがみこんでる私の方に近づいてくる。
「いいよ。パンツ見えるから俺がやる」
「……!」
そう言われて私は顔を真っ赤にしながら、咄嗟にミニ丈のデニムワンピース裾を手で押さえていた。
「嘘だよ」
「な…っ」
さっと屈んだ橘マネージャーが、私より先に落ちているタグを回収してしまう。
「お前のことだから、あいつの条件飲んで俺のこと避けるだろうなって正直思ってた」
「…そりゃ私もそうした方が楽だなって、一瞬思ったけど…」
「思ったのかよ。…まぁそんなの、俺が許さねぇけどな」
正直に胸の内を話そうとしている私の顔を、橘マネージャーはじっと同じ目の高さから見据えていた。
「なんか、誰かが怒ってあげなきゃ、ゆりちゃんはいつまでたっても成長できない気がして…。そういうところが、昔の自分と重なったの」
いつも人のせいにばかりして、自分のミスを認めようとしなかった私。
あの時橘マネージャーが本気で怒ってくれなかったら、今もああいう態度で周りに接してたかもしれない。
「…てかさ、人を怒ることってこんなにパワー使うことなんだね。言ってる途中でしんどくなったよ。あー…知らなかった」
「結城…」
人間関係に余計な波風たてたくなくて、やらなきゃいけないことから、私はずっと目を逸らしてた。
店長って立場なのに、情けない。
「橘マネージャーが私を怒るのは、ずっとストレス解消するためだって思ってた。…でも私なんかのために、そういう嫌な役引き受けてくれてたんだね」