ウソつきより愛をこめて
少し俯きがちだった私の頭の上に、彼の大きな手が乗っかってくる。
いつもはすぐに振り払っていたその手がなんだか心地よく感じて、私はその時だけ甘んじて受け入れることにした。
「ったく…バーカ」
「なんなの、せっかく人が感傷に浸ってる時に」
「ストレス解消とか…お前は今まで俺をなんだと思ってたんだ」
「性格極悪の鬼畜上司!」
「くそ、言いたいこと言いやがって…」
橘マネージャーがスタイリングされた私の髪を、手でぐちゃぐちゃに乱してくる。
「ぎゃーっ、ちょっとやめてっ」
その手を阻止しようとした私の手は、逆に彼の手の中にすっぽりと収まっていた。
「確かにそういう目的のために叱ってきた奴もいたけど、お前に関してはそれだけじゃない」
「…どういう意味?」
「お前何度俺に怒られても、めげずに歯向かって来ただろ?そういう奴見たことなかったから、なんとなく気になりだして…いつの間にか目が離せなくなったんだよ。…全く迷惑な話だろ」
「へぇ、…それは大変だったね」
「おい、なに人事みたいに言ってんだ。…ちゃんと意味わかってるのか」
いつの間にか距離が近づいていることに気がつき、私は視線をフロアの床に彷徨わせる。
立ち上がりたいのに、橘マネージャーが私の手を掴んだままで離そうとしなかった。
「特別だったんだよ、お前が。どうでもいい奴のこと、あんなに怒るわけないだろ?」