ウソつきより愛をこめて

考えているうちに疲れが響いてきて、まぶたが徐々に重くなってくる。

一刻も早く寧々のぬくもりに包まれながら安心して眠りたい。

あんなとこでいつまでも熟睡できるはずないよね。

…わざわざ起こさなくてもどうせそのうち勝手に起きるだろうし。

とりあえず放置と決めた彼の身体に毛布だけ掛けてあげて、浴室に向かい化粧を落としてシャワーで汗を流す。

髪を乾かし寝る気満々でルームウェアを着込むと、リビングに橘マネージャーがいた事を思い出してげんなりしてしまった。

今日は色んな店舗を回って疲れてしまったのだろう。

「橘マネージャー、もういい加減起きてくださーい」

呼びかけても身じろぎひとつせず、彼は深い眠りについている。

「たーちーばーな…」

「…ん…」

耳もとで呼びかけたらようやく小さな反応があった。

「起きてくださーい」

「……」

肩に手を掛けて揺らせば、閉じたままだったまぶたがゆっくりと開き始める。

まだ焦点が定まらないような彼は、近くにいた私のことを無表情のまま視界に捉えていた。

「…橘マネージャー?」

ゆっくりと伸びてきた彼の手が、なぜか私のルームウェアの袖口を掴んでいる。

そのままぐいっと引き寄せられた私は、彼から漂うお酒の臭いにはっとして顔を持ち上げた。

よく見れば足元にビールの空き缶が転がっている。

「……やめろ…」

「ちょっと、なんでこんなに酔っ払ってんの」

「…もうやめろよ…その呼び方」

「はぁ?…何言ってんの」

「……翔太だろ、…エリカ…」

「…んっ…」

完全に油断していた私は、素早く押し当てられた唇を全く避けきることが出来なかった。

< 95 / 192 >

この作品をシェア

pagetop