ウソつきより愛をこめて
考えているうちに疲れが響いてきて、まぶたが徐々に重くなってくる。
一刻も早く寧々のぬくもりに包まれながら安心して眠りたい。
あんなとこでいつまでも熟睡できるはずないよね。
…わざわざ起こさなくてもどうせそのうち勝手に起きるだろうし。
とりあえず放置と決めた彼の身体に毛布だけ掛けてあげて、浴室に向かい化粧を落としてシャワーで汗を流す。
髪を乾かし寝る気満々でルームウェアを着込むと、リビングに橘マネージャーがいた事を思い出してげんなりしてしまった。
今日は色んな店舗を回って疲れてしまったのだろう。
「橘マネージャー、もういい加減起きてくださーい」
呼びかけても身じろぎひとつせず、彼は深い眠りについている。
「たーちーばーな…」
「…ん…」
耳もとで呼びかけたらようやく小さな反応があった。
「起きてくださーい」
「……」
肩に手を掛けて揺らせば、閉じたままだったまぶたがゆっくりと開き始める。
まだ焦点が定まらないような彼は、近くにいた私のことを無表情のまま視界に捉えていた。
「…橘マネージャー?」
ゆっくりと伸びてきた彼の手が、なぜか私のルームウェアの袖口を掴んでいる。
そのままぐいっと引き寄せられた私は、彼から漂うお酒の臭いにはっとして顔を持ち上げた。
よく見れば足元にビールの空き缶が転がっている。
「……やめろ…」
「ちょっと、なんでこんなに酔っ払ってんの」
「…もうやめろよ…その呼び方」
「はぁ?…何言ってんの」
「……翔太だろ、…エリカ…」
「…んっ…」
完全に油断していた私は、素早く押し当てられた唇を全く避けきることが出来なかった。