ウソつきより愛をこめて
***
「疲れたぁー…」
化粧がほとんど落ちきった疲れた顔で、私はタクシーから降り覚束無い足取りでマンションのエントランスを目指す。
とりあえずタクシー代は返して、寧々のことはきちんとお礼を言おう。
時刻は二十三時半を、ちょっと過ぎたところ。
なんとか今日中に終わったけど、寧々はもうきっと寝てるから、帰っても寝顔しか見ることができないのが非常に残念でならない。
…世の中の働く母親ってみんなこんな感じなのかな。
仕事が理由とはいえ、寧々に寂しい思いをさせてしまったことに違いはなくて私はひたすら自己嫌悪に陥っていた。
今日はインターホンを鳴らさずに、暗証番号を入力して1階のゲートを解除する。
帰ってきたことを知らせるよりも、疲れた寧々を起こさないようにしてあげたい。
そんな思いから、私は部屋の鍵を開ける時も、細心の注意を払って音を立てないようにして中に入っていた。
(橘マネージャーは、さすがにまだ起きてるよね…)
リビングの方から差し込む光がに眩しくて、私は目を細める。
そこにはノートパソコンを開いたまま、テーブルに突っ伏して寝息をたてる橘マネージャーの姿があった。
どうやら寧々のことはちゃんと寝室で寝かせてくれたらしい。
ここまでやってくれた人をいきなり起こして帰れって言うのは、いくらなんでも最低だろう。
目の前にある広い背中を見つめながら、どうしたもんかと私はしばらく思案していた。