クリスマスプレゼント
家路を急いでいると、近所の貴金属店が、「長らくのご愛顧ありがとうございました」という貼り紙を貼って、ぽつんと建っていた。仕事のないまだ若い僕と、資金繰りの苦しい小売店。新聞には、景気復調の兆し、などという文字が躍っているが、現実はこうなのだった。
僕には、高価な貴金属なんてとても購入するお金はなかったが、それでもこれまで頑張ってきてくれた古びた店に親近感を覚えて、店内に足を踏み入れた。
「いらっしゃい」
店の奥から、小柄なおばあさんが出てきてくれた。短く刈った白髪に、あたたかそうな半纏。飾らない格好に好感が持てる。
「あの、ただ商品を見たかったんです。いいでしょうか」
「どうぞ、どうぞ。ここの品たちも長年の付き合いでね、手放すのは惜しいのですよ。でも、お気に召したものがあれば、おっしゃってくださいね」
優しいおばあさんの声に甘えて、僕は店内を見て回った。十分もあれば回れるような小さな店内には、品のよい飾りのついたカフスボタンや、タイピン、ブローチ、指輪、時計などが、ほこりもなく並べられていた。店主の、清潔感へのこだわりが感じられる。
その中で、特に僕の目をひいたものがあった。上品なシルバーの指輪。それを見ると、昔なんとかお金を貯めて陽子に贈った結婚指輪が思い出された。余計な飾りがついておらず、ただ石の代わりに花が彫られたその指輪は、とても繊細で、アンティークのような独特の存在感を放っていた。
「この指輪はね、ちょっとデザインは古いけれど、とてもいいものなんですよ。お兄さん、お目が高いですね」
おばあさんがにこにこと笑いながら、声をかけてくれた。僕は、これを陽子に贈ったらどんなに喜ぶだろう、と思いながら指輪を眺めていたが、ついにおそるおそる値段を尋ねてみた。金額はそう高くなかったが、僕にとっては大金だ。だが、今日は特別だ。僕は、思い切ってその指輪を買った。
おばあさんは、会計のあと、指輪と箱を持って奥へ消えたが、やがて淡く輝くパールピンクのボックスに、マットなゴールドカラーのリボンで美しくラッピングした包みを持ってきて、手渡してくれた。
住居と思われる奥の部屋からは、かすかな赤ちゃんの泣き声と、あやす若い女性の声が聞こえてきた。
「うるさかったら、ごめんなさいね。娘が、孫を連れて里帰りしているものですから」
おばあさんはすまなそうに言ったが、僕は、まだ見ぬ子供が無事に生まれるという幸福な前兆のような気がして、おばあさんにそう伝え、彼女の心配を笑顔で打ち消して店を出た。
僕には、高価な貴金属なんてとても購入するお金はなかったが、それでもこれまで頑張ってきてくれた古びた店に親近感を覚えて、店内に足を踏み入れた。
「いらっしゃい」
店の奥から、小柄なおばあさんが出てきてくれた。短く刈った白髪に、あたたかそうな半纏。飾らない格好に好感が持てる。
「あの、ただ商品を見たかったんです。いいでしょうか」
「どうぞ、どうぞ。ここの品たちも長年の付き合いでね、手放すのは惜しいのですよ。でも、お気に召したものがあれば、おっしゃってくださいね」
優しいおばあさんの声に甘えて、僕は店内を見て回った。十分もあれば回れるような小さな店内には、品のよい飾りのついたカフスボタンや、タイピン、ブローチ、指輪、時計などが、ほこりもなく並べられていた。店主の、清潔感へのこだわりが感じられる。
その中で、特に僕の目をひいたものがあった。上品なシルバーの指輪。それを見ると、昔なんとかお金を貯めて陽子に贈った結婚指輪が思い出された。余計な飾りがついておらず、ただ石の代わりに花が彫られたその指輪は、とても繊細で、アンティークのような独特の存在感を放っていた。
「この指輪はね、ちょっとデザインは古いけれど、とてもいいものなんですよ。お兄さん、お目が高いですね」
おばあさんがにこにこと笑いながら、声をかけてくれた。僕は、これを陽子に贈ったらどんなに喜ぶだろう、と思いながら指輪を眺めていたが、ついにおそるおそる値段を尋ねてみた。金額はそう高くなかったが、僕にとっては大金だ。だが、今日は特別だ。僕は、思い切ってその指輪を買った。
おばあさんは、会計のあと、指輪と箱を持って奥へ消えたが、やがて淡く輝くパールピンクのボックスに、マットなゴールドカラーのリボンで美しくラッピングした包みを持ってきて、手渡してくれた。
住居と思われる奥の部屋からは、かすかな赤ちゃんの泣き声と、あやす若い女性の声が聞こえてきた。
「うるさかったら、ごめんなさいね。娘が、孫を連れて里帰りしているものですから」
おばあさんはすまなそうに言ったが、僕は、まだ見ぬ子供が無事に生まれるという幸福な前兆のような気がして、おばあさんにそう伝え、彼女の心配を笑顔で打ち消して店を出た。