ring ring ring
しばらくして、なかなかサウナから戻らない由紀を待ちくたびれたわたしたちは、岩風呂を出て、檜風呂へ移動した。湯船に足を入れると、ふわりと檜の清々しい香りが体を包み、心までも癒してくれる。つくづく日本人でよかったと思える瞬間だ。肩までつかって思わず息を漏らすと、
「おじさんみたい」
はるかちゃんが笑った。せめておばさんと言ってもらいたかったけれど、本当におばさん呼ばわりされたら、はるかちゃんを湯に沈めてしまうので、スルーすることにした。そもそも、目を閉じ、ゆっくりと息を吸い込んで、湯気と檜の香りに満たされ「安らぐ〜」と呟く頃には、おじさんだろうがおばさんだろうが、どうでもよくなってしまうのだ。
事件が起きたのは、そんな、リラックスの絶頂にあったときのことだった。
室内風呂の方から、突然数人の悲鳴があがった。変質者でも来たのかと思い、わたしははるかちゃんと手を取り合い、身を固くした。
「なななななんですかね」
「大丈夫よ、はるかちゃん。わたしがついてる」
というわたしも動揺が激しく、まったく何が大丈夫なのかわからないが、それでもはるかちゃんには多少の効果があったらしく身を寄せてきて、わたしたちは握り合う手に力を込めた。
室内と露天をつなぐ扉付近が騒がしい。やがて扉が開けられたので、中腰になって様子を見てみると、どうやら変質者ではなく、誰かが倒れたようだった。
大丈夫ですか、少し冷たい風に当たりましょう、スタッフ呼びました、といった大勢の声に囲まれ、ひとりの女性が横たわっている。その体が人の隙間から見えた瞬間、わたしは目を見張った。
「……由紀っ?!」
扉付近にはサウナがある。そこに倒れている、ほどよく日に焼けた、筋肉質の体つきの女性は、間違いなく由紀だった。
「おじさんみたい」
はるかちゃんが笑った。せめておばさんと言ってもらいたかったけれど、本当におばさん呼ばわりされたら、はるかちゃんを湯に沈めてしまうので、スルーすることにした。そもそも、目を閉じ、ゆっくりと息を吸い込んで、湯気と檜の香りに満たされ「安らぐ〜」と呟く頃には、おじさんだろうがおばさんだろうが、どうでもよくなってしまうのだ。
事件が起きたのは、そんな、リラックスの絶頂にあったときのことだった。
室内風呂の方から、突然数人の悲鳴があがった。変質者でも来たのかと思い、わたしははるかちゃんと手を取り合い、身を固くした。
「なななななんですかね」
「大丈夫よ、はるかちゃん。わたしがついてる」
というわたしも動揺が激しく、まったく何が大丈夫なのかわからないが、それでもはるかちゃんには多少の効果があったらしく身を寄せてきて、わたしたちは握り合う手に力を込めた。
室内と露天をつなぐ扉付近が騒がしい。やがて扉が開けられたので、中腰になって様子を見てみると、どうやら変質者ではなく、誰かが倒れたようだった。
大丈夫ですか、少し冷たい風に当たりましょう、スタッフ呼びました、といった大勢の声に囲まれ、ひとりの女性が横たわっている。その体が人の隙間から見えた瞬間、わたしは目を見張った。
「……由紀っ?!」
扉付近にはサウナがある。そこに倒れている、ほどよく日に焼けた、筋肉質の体つきの女性は、間違いなく由紀だった。