偽装結婚の行方
「はい?」

「あの子は大丈夫とは思うが、油断は禁物だよ?」

「と言いますと……?」


渡辺さんが言ってる意味が、俺にはよく分からなかった。


「分からないかなあ。あの子は身を引いて君と別れたんだろ? という事は、今はかなり辛い思いをしているはずだ。将来を悲観して……って可能性がなくはないと思う」

「もしや、じ……」


俺は、口に出すのも恐ろしい言葉を思い浮かべてしまった。


「あの子はしっかりしてるから、愚かな真似はしないと思うが、万が一という事もある。もしもの場合、取り返しがつかないだろ? だから、君は一刻も早くあの子に連絡しなさい。そして君の気持ちを伝えてやりなさい」

「は、はい。そうします!」


俺はガタンと音をさせて勢いよく立ち上がり、渡辺さんに会釈して喫茶店を出た。耳に携帯を当て、“出てくれ!”と祈りながら。

ところが、呼び出しはするものの、尚美が携帯に出る事はなかった。

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