偽装結婚の行方
窓は雨戸が締まっており、そのせいで部屋が暗かったようだ。という事は、ちょっと近所へ出掛けている、とは考えにくい。では、どこへ行ったのか……

ああ、そうか。実家だ。きっと実家に行ってるに違いない。

他に尚美が行きそうな場所に心当たりもなく、俺は携帯の連絡先を開き、尚美のお母さんを探した。掛けた事は一度もないが、登録だけはした記憶がある。


あった……

俺はホッとしながら、表示された携帯の番号をタップした。


「もしもし、お母さんですか? 涼です」


と言ってから、俺はハッとある事に思いが及んだ。それは、俺が本当は希ちゃんの父親でない事を、既に尚美からお母さんに伝わっている可能性だ。それでは“秘策”が成り立たず、俺としてはとても残念な事なのだが、十分に有り得る事だ。

ところが……


『あら、涼君なの? 珍しいわね。どうしたの?』


電話に出たお母さんは、暢気な口調でいつもと変わらなかった。それはつまり、まだ知らされていないという事だろう。俺はホッとしながら、


「あの、そちらに尚美達がおじゃましてますか?」

と聞いてみた。すると……


『いいえ、来てないわよ』


と即答され、当てが外れて俺は愕然とした。実家へ行ってないなら、いったいどこへ行ったのか……


「そうですか……」

『どうしたの? 連絡が取れないの?』

「はい、そうなんです。あ、そうだ。尚美の行き先にどこか心当たりはありますか?」


我ながら良く気付いたと思う。そうだよ、お母さんなら、尚美の行き先に心当たりがあるかもしれないじゃないか……

だが、俺の期待をよそに、お母さんは事も無げに言った。


『尚美なら家にいるわよ?』


と。

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