偽装結婚の行方
「どうだい? 俺の“秘策”は?」

「私は異論ないわ。あなたがそれで良ければ……」

「よし。じゃあ決まりだな。あ、そう言えばさ……」


その時、俺はふとある疑問に気づいた。


「おまえさ、あそこの崖から飛び降りようとしてたんじゃないの?」

「ち、違うわよ。そんな事しないわ」

「だったらさ、なんでこんな所まで来たんだ? 気晴らしか?」


それが俺の疑問だった。


「それも多少はあるけど、そこに旅館があるでしょ?」


と言われて尚美が指差した先を見ると、旅館というかホテルというか、白っぽい大きな建物がすぐ近くに建っていた。


「そこで住み込みの仲居さんを募集してて、その面接に来たの」

「住み込み? あ、俺達から姿をくらまして、ここで暮らそうとしたのか?」

「うん、実はそうなの」

「姑息な真似を……。で、採用になったのか?」

「ううん、まだ決まってない。後で通知が来る事になってるの」

「そっか。じゃあすぐ行こう。行って、辞退するんだ」

「うん、そうね。“ごめんなさい”って謝らなくちゃ」


さっそく俺達はその旅館に向かって歩き出した。


「いや、待てよ。和服を着て仲居さんをやってる尚美も見てみたいかも、だな」

「え? 涼ったら……」

「あ、そうだ。お詫びの印にって訳じゃないけど、今日はそこに一泊しないか? 部屋が空いてればだけど」

「そうね……いいわよ? ところで涼、あなた車で来たんじゃないの?」

「へ? あ、いっけねえ。エンジン掛けっぱなしだ。取って来る」


希ちゃんを抱いたまま慌てて車に向かいかけたら、「涼!」と尚美が俺を呼び止めた。


「ん?」

「あのね……」

「なんだよ?」

「えっとね……」


俺を呼び止めておきながら、尚美はもじもじして話しずらそうにしていた。


「車が心配だからさ、早く言ってくれる?」

「うん。私ね、涼の……赤ちゃんを産みたい」

「…………へ?」


尚美は、熟れたトマトみたいに顔を真っ赤にしていた。俺も一瞬遅れてその言葉の意味を飲み込み、尚美とのあれやこれやを想像し、顔がカーッと熱くなってしまった。


「わ、わかった。任せてくれ。全力で努力するから」

「う、うん……」


車に向かって歩きつつ、顔がひとりでにニヤケるんで困ってしまった。


「希ちゃん。弟と妹と、どっちがいいでちゅか?」


と聞いてみても、希ちゃんが答えてくれるわけもなく、クリクリの目で俺を見上げるばかりだった。



おしまい。



これで完結となります。番外編等の予定はありませんが、何かエピソードが浮かびましたら書くかもしれません。
最後までのお付き合い、誠にありがとうございました。


2014.2.8(大雪の日) 秋風月

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