偽装結婚の行方
「ねえ、どうなのよ?」

「ん……そう言われてもなあ。特に気に入った子はいないしさ……」

「告られたりはしないの?」

「はあ? 学生じゃあるまいし、そんなのねえよ」

「そうかなあ。例えば、女の子から食事に誘われたりとか、バレンタインに本気っぽいチョコ貰ったりしない?」

「そういう事なら無い事もないかな」

「告られてんじゃん」

「そ、そうなのか?」

「そうに決まってるでしょ? あんたってば、昔から鈍感なんだから……」

「俺は鈍感なのか?」

「そうよ。しかもその自覚が無いんだから、最悪だわ」

「ん……」


そんな事は初めて言われたが、そうなんだろうか。長年付き合ってきた真琴が言うんだからそうなのかもしれないな。

だとしてもだ、今更どうする事も出来ないわけで……

と考えていたら、真琴が俺に顔を近付けてきた。


「ねえ、溜まってない?」

「溜まるって、何がだよ? って言うか、顔が近いって……」


真琴の顔でテレビが見えなくなった。それはまあいいのだが、真琴のガーリック臭い息が俺の顔に掛かって気色悪い。ついさっきまで真琴はピリ辛のポテチをムシャムシャ食っていたのだ。


「欲求に決まってるでしょ?」

「よ、欲求?」

「何だったら、あたしが……」


と真琴が意味不明な事を言ったところで、ローテーブルに乗せていた俺のスマホが、ガタガタとけたたましく震えだした。

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