偽装結婚の行方
その震え方でメールではなく着信だと分かり、俺は這うように移動してスマホを掴み上げると、意外な事に親父さんからの着信だった。親父さんからメールや電話が来るのは非常に珍しく、それだけに俺は少し緊張気味に電話に出た。


『涼か?』

「はい」

『今どこにいる?』

「友達の家だけど?」

『すぐ戻って来い』

「えっ、なんで? 何かあったの?」

『来れば分かる』

「そんな……。気になるから言ってよ」

『いいから早く帰って来い。何分で来れるんだ?』

「30分ぐらいかなあ」

『そうか。とにかく急げ』

「わかった。でも、いったい……」


“何があったの?”と俺が言葉を続ける間もなく、親父さんはさっさと通話を切ってしまった。

いったい何があったんだろう。今の親父さんの態度は尋常ではない。普段の親父さんは物静かな人で、俺に対しても優し過ぎるくらいだ。しかし今の親父さんは、まるで……怒っているようだった。

俺、何かやらかしたのかなあ。


「どうしたの?」

「親父さんからで、急いで帰って来いって言われた」

「ふーん、何かあったの?」

「わからない。とにかく俺、帰るわ」

「うん。またね?」

「お、おお。ところでさ……」

「ん?」

「いや、何でもない」


さっきの真琴の意味不明な言葉の意味を聞こうかと思ったが、時間が無いのでやめた。そして俺はダウンのコートを引っ掛けると、真琴のアパートを飛び出した。

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