偽装結婚の行方
荷物はあっという間に積み終わった。


「じゃあ俺、行くわ」


いつの間にか起き出して来た姉貴とお袋に向かい、玄関で俺は別れを告げた。ちなみに親父は早朝からゴルフに行っている。


「あんたったら、“ちょっと行ってくる”みたいな言い方をして……」


俺の軽い物言いに、お袋は呆れたような、それでいて寂しそうな顔をした。


「どうせ何度も帰って来るんでしょ? 荷物を置きっぱなんだから……」


と言ったのは姉貴だ。


「まあね。でも、あまり持ってく気はないよ。特に大きいのは」

と俺が返すと、

「すみません。アパートは狭いので……」


すかさず尚美が申し訳なさそうにそう言った。


「ううん、いいのよ? こっちは構わないの」


すぐにお袋がフォローしたが、


「早く家を建てる事ね」


と姉貴は気楽な事を言った。更に、


「そうだ。その前に車を買いなさいよ」


とも言った。


「車? なんで?」

「だって、赤ちゃんもいるんだし、これからますます寒くなるし、車が無いと出掛けるのに不便でしょ?」

「そうよ。車、買いなさいよ。なんだったら援助するから。ね?」


お袋まで乗り気だった。車を買い、孫を連れてちょくちょく帰って来い、という事なんだと思う。


「はいはい。前向きに検討するから。じゃあな」


俺は小さく溜め息をつき、尚美がお袋達と挨拶を終えるのを待って玄関を出た。


ハアー。空しいなあ。どうせ近い将来、『あれは嘘でした』と言って帰って来なきゃいけないんだよなあ。

それを思うと、すっごく気が重い俺だった。

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