偽装結婚の行方
「でもさ、俺も行かないと不自然て言うか、常識ないと思われないかな? 今日から同居するわけで、その挨拶をしないといけないんじゃないの?」

「それは大丈夫だと思う。もし聞かれたら、涼は荷物の整理をしてるから、って言っておくわ」

「ん……いいのかなあ」

「いいから、いいから。私は希を連れてすぐ戻るから、テレビでも観ながら待ってて?」

「わかった。そうするよ」


出来れば尚美の親と顔を合わせたくない俺は、素直に尚美の言葉に甘える事にし、コートを着た尚美を玄関で見送った。


「あ、冷蔵庫に飲み物があるから、好きなの飲んで?」

「お、おお」

「じゃあ、行って来ます」


と言って尚美は照れ臭そうに頬を染め、それにつられたように俺も顔がポッと熱くなった。


「慌てて帰らなくていいからさ、気をつけてな?」

「はい」


尚美を送り出した俺は、なんだか本当に夫婦になったみたいな、あるいは同棲を始めたカップルみたいだなと思った。もちろん周囲を欺く偽装だって事は十分承知しているが、密かにそう思うぐらいは構わないよな、と自問自答しながら……

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