偽装結婚の行方
そして年を越し、正月を迎えた。

大人になってからは、年越とか正月は、単に長い休みってだけで特に何てことはなくなっていたが、今回のそれは何だかんだと忙しく、充実してたと思う。


大晦日は多少だが大掃除なるものをし、紅白を観ながら年越しそばを食べ、近所の神社へ3人で初詣に行った。ちなみに俺は賽銭を奮発し、“今の生活がいつまでも続きますように”と祈った。尚美に何を祈ったのか聞いたら、「内緒!」と言われた。もちろん俺のもそうだけど。


帰って少し寝た後、車で俺の実家へ行った。お袋さんが作ったおせちを食わせてもらい、酒を飲みたいところだったが車なので我慢。

親父さん、つまり爺さんから希ちゃんはお年玉をもらった。もちろん希ちゃんは金の価値なんかまだ分からないけれども。その時の親父さんの、少し照れながら、しかし嬉しそうに目尻を下げた顔を見て、俺の胸はチクっと痛んだ。


「まだいいでしょ?」と引き留めるお袋さんを振り切るようにして、次は尚美の実家へ行った。そこでも尚美のお母さんの手作りのおせちをご馳走になり、やはり希ちゃんはお年玉をもらい、俺の胸はチクリと痛んだ。


「涼君、今日は飲もう? 正月ぐらいはいいだろ?」


尚美のお父さんが俺に盃(さかずき)を差し出した。尚美の両親と俺は、最初の頃はギクシャクしていたが、最近は結構いい感じになっている。俺は酒は嫌いではないし、飲みたいところだが車で来ている。


「すみません。車なものですから……」

「泊まってけばいい」

「いやあ、それは……」


そこまで長居はしたくなく、どう返事しようかと悩んでいたら、


「涼、帰りは私が運転するから飲んでいいわよ?」


と尚美が言った。


「しばらく運転してないのに大丈夫か?」


すかさずお父さんから言われ、


「大丈夫だと思う。でも、起きててね?」


と尚美は俺に言い、「お、おお」と俺は答えた。尚美が車の免許を持ってるなんてちっとも知らなかった。聞けば、実家で暮らしてた頃は自分の車を持ってたらしい。


という事で、尚美のお父さんと酒を酌み交わし、いい気分になった。帰りは尚美がハンドルを握り、俺は後部座席で希ちゃんの隣。希ちゃんの寝顔を見てたら、俺も眠くなり……


「涼、寝ないで!」

「お、おお。寝ないって……」


とか言いながら、俺は心地よい眠りに落ちて行った。こういうのを幸せって言うのかなあ、なんて思いながら。

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