ボーイズ・ビー・アンビシャス
「やばい、マジで俺…人前とかで歌ったことないし、とぶかもしんねえ」
「おいおい、大丈夫かよ」
「やばいかも」
放課後の最後の練習の前。
緊張がピークだった。
そんな切羽詰まった俺に気を使ったのか、二戸がある提案をしてきた。
「じゃあさ、風志」
「ん」
「お前の一番リスペクトする人物は?」
「ケインに決まってるだろ」
「即答かよ」
当たり前だ。
彼が俺を音楽の世界に導いてくれたのだから。
最も敬愛する人物だ。
その話は二戸にも何度もしている。
「っふ…だからさ、明日、お前は一日だけケインだ」
「はあ?」
何を突拍子もないことを。
そう思って眉をひそめる。
「だから、明日、お前はステージに立ってマイクを持ったときだけ、自分をケインだと思えばいい」
「ケインはギタリストだ。歌わねーよ」
「うるせえ、ものは考え方だ。だまって従え」
二戸は立てかけられていたギターを持つと、椅子の上に立つ。
そして、かっこわるいポーズでコードなんてわからないくせに、ギターをかき鳴らした。
「どうだ、風志」
「どうって」
「俺は、ケインだ。ケインはお前の神様。そんな彼が、たかだか体育館いっぱいの観客相手に、とぶワケないだろう?」