偽りの愛は深緑に染まる

 待ち合わせ場所に着いた梨沙は、いつになくそわそわしていた。

 佐渡山のアパートはこの公園から歩いて5分とかからない。

 佐渡山はああいう顔が良くてもてるタイプらしい、社交的で賑やかなタイプではなく、かなりの偏屈であることがこの数日間でわかった。何かの拍子にふらっと散歩に出たりするかもしれない。

「お待たせ、梨沙」

「あっ! こんにちは」

 何だか、今日は光流さんがものすごく素敵に見える。いや普段から素敵な人なのだが。

 今日は映画を観に行くことになった。

 梨沙も前から観たいと思っていた作品だったので、喜んで映画館へ向かう。

 今日はヒールの高いブーツを履いてきたので、いつもと世界が違って見える。ほんの5、6センチの違いだけれど。

 映画は予想以上に面白かった。夢中になって観ていると、佐渡山のことなど忘れていた。

 
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