偽りの愛は深緑に染まる

 ーー知らなかった、知らなかった、こんなことになるなんて、こんな本性があったなんて。

 梨沙は駅の構内にあるパン屋でパンを買いながら、未だに信じられない思いだった。

 ろくに眠れなかったので寝不足で足下が怪しい。それに昨夜の後遺症でまだ腰がガクガクしている。

 あの優しくて、紳士な光流さんが、あんな風に変貌するとは。思い出して少し顔が赤くなった。

 トレイにデニッシュと焼きそばパンをのせてレジへ進む。お腹は空いているはずだが、なぜかパンが食べ物に見えない。

 ああ、頭がパンクしそうだ。帰ったら、これを食べる前にまず一眠りしよう。
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