偽りの愛は深緑に染まる
回り出す
月曜日の朝、そして今にも雨が降り出しそうな曇り空。機嫌の良い人はほとんどいない。出勤を急ぐ会社員たちの足音や車のクラクションが、苛立ちを含んで聴こえる。

佐渡山はこだわりのある赤いイヤフォンを揺らしながら、マイペースに歩いて通勤していた。周囲の人物がカリカリしている時に口笛でも吹きそうなくらいご機嫌で、余裕ぶった態度でいようとするのは彼の無意識な癖のようなものだ。

日常生活に不満など特にない。強いて言えば時々つまらなかったりしょうもなかったりして面白くない気持ちになるが、それをうまく紛らわせる"暇潰し"を見つけるのが楽しいから、いいのだ。
"暇潰し"は趣味だったり、没頭できる何かだったり、人だったりする。

やっぱ、最近、っつかここ1年くらいでダントツはあれだな。

"アイツ"はいつも、思った通りの反応をする。愉快で仕方がない。あんな大胆な秘密を抱えておいて、意外と抜けてたりするのも魅力の一つだ。外見は結構いけてるはずなのに、何かをこじらせて不器用になっているところも面白い。この間なんか仲良くなろうとして飲みに誘ったら、あまりにひどい帰り方をされて、もはや笑ってしまった。

佐渡山はお気に入りの玩具、梨沙に今日会ったら何て言ってやろうか考えながら、軽やかに会社のビルに入っていった。

何せ、彼女の"相手"が誰か、わかったかもしれないのだから___
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