偽りの愛は深緑に染まる
高層ビルが林立する都心のオフィス街。巨大なビル群の中の1つ、ひときわ新しい、輝くミラーガラスの洗練された建物の25階。

室内はダークグリーンを基調とした落ち着いたデザインのオフィス家具で整えられている。もちろんこの部屋には大量の書類が存在するが、あちらこちらに乱雑に、裸で置かれていることなどない。全てのものがあるべき場所に、練りに練られた収納の中で呼吸している。

ここは、近年急成長を遂げた企業、Liftの代表取締役、光流の拠点。社長室だ。

インテリアをリードする存在として、自分の居城であるこの空間を常に美しく、機能的に使いこなさなければならないという使命感が、彼にはあった。家具の設計、デザイン、配置、床の材質や壁の色などあらゆるものが光流自身の仕事だ。

そして部屋の主は、完璧な部屋を仕上げる最後の1ピースとも言える。すらりとした長身をダークグレーの上質なスーツで包み、繊細で中性的な美貌は陽光に透けて輝く髪で飾られている。

そんな絵の中にひとつだけシミがある。

この部屋の主が穏やかでない表情で、あれこれと考えを巡らせているのだ。

< 42 / 60 >

この作品をシェア

pagetop