偽りの愛は深緑に染まる
梨沙は帰り道に通る並木道の地面に散らばったどんぐりを蹴飛ばしながら、ずんずんと歩いていた。

佐渡山のニヤついた顔を思い出すと、イラついてくる。「あーやだやだ」とぶつぶつ呟いてしまう。

一体あの男はどうやって光流さんの正体を知ったのだろう。もともと私と光流さんが2人でいるのを目撃したところから始まったから、顔で分かったのだろうか。

芸能人ほどではないが、ビジネス雑誌などでちょくちょく顔を出しているからそこで知っていたと考えることはできる。

しかし、なぜそこまで私の愛人業のことを知りたがるのだろう。

いよいよ本格的に金をたかられるのだろうか。確かに月々の副収入が月給と同程度ある。光流さんの会社名まで知られてしまった今、脅しがエスカレートする可能性も充分にある。

しかし、あくまで直感だが佐渡山はそこまではしないだろうというのは、甘いだろうか。

佐渡山のしたいことは同僚を脅して金を巻き上げることではなく、ひたすら刺激して感情をかき乱すその様子を楽しむという、もっと悪質なことのはずだからだ。そのための材料探しには努力を惜しまない、そういう奴だ。

もうこれからは、佐渡山に何か言われたら徹底的に無視か、つまらない反応をしよう。そうすれば、いつか飽きてくれるだろう。

信号が赤になり立ち止まる。時間を確認しようとカバンからスマホを取り出すと、メールが届いていた。

____光流さんからだった。

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