偽りの愛は深緑に染まる
不遜な笑みを浮かべる佐渡山を見つめながら、梨沙はしばらく硬直していた。心臓の鼓動が速くなる。頭がガンガンしてきた。

「なん、で……」

やっとのことで、喉の奥から絞り出すように問う。問いかけたものの、この場から逃げ出してしまいたくなった。ただでさえ、今は愛人業のことはあまり考えたくない。なのに、人をおもちゃにして楽しむこの男に、そのことで追い詰められようとしている。

「まあ、たまたまなんだけど。確信もないし。あ、でも君の反応が決定的な証拠かな? 助かったよ___」

「楽しいの?」

阿呆らしくなってきた。なぜ、こいつに感情を乱されなければいけないのだろう? 時間の無駄、迷惑だ。さらに悩みが増える。晩御飯も不味くなる。

激怒するほどの気力もなかったから、気の抜けたような声になってしまったが、佐渡山は少し面食らった顔をした。

「なんかめんどくさいから、先帰るね。お腹すいたし。お疲れ」

梨沙は自動ドアに向かってそう言いながら、早歩きで会社を出た。

佐渡山はしばらく立ち尽くしていたが、やがてつまらなさそうな顔をして帰り道についた。


「……知ってるんだな」

ビルを出たところで壁に背をもたれかけ、缶コーヒーを飲みながら、光流の秘書・滝口はぼそっとつぶやいた。
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