偽りの愛は深緑に染まる
優雅な動作でスマホをポケットにしまい、光流は"彼"に向かって言った。

「これで、わかったかい? 僕と夏目さんの関係は本物だよ。名前なんだっけ、ええと。佐川くんだっけ?」

「……佐渡山、です」

ここは、高級料亭の個室。

佐渡山は今週火曜日の朝、出勤中に光流に呼び止められ、佐渡山の個人情報を握っていること、梨沙に近づいたらただではすまないということを伝えられた。

『突然すみません。私、株式会社Liftの代表取締役です。佐渡山崇さんですね?』

頭の回転の速い佐渡山は、それだけの言葉でまるで電流が流れるように0.5秒ほどで全てを理解したが、あまりに突然のことで口を開いたまま固まってしまった。

それを見た光流は「また後日落ち着いたところで話をしよう」と言い残し、その場を去った。

そして今日、佐渡山はメールでこの料亭に呼び出された。


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