偽りの愛は深緑に染まる

「どうしてかな。なんとなく目に留まったんだよ」

 結局、梨沙は引き受けた。

 最初の3回は、ただ一緒に映画を観に行ったり、食事をしたりするだけだった。何もないのが逆に怖かった。こんなことで本当に、あんな金額を貰えるのだろうか。やっぱり騙されているんだと疑っていた。

 だから、ホテルに行こうと言われた時はほっとした。

 そういう関係になってからは、時々罪悪感のようなものを感じたりもした。こんなことを続けているうちは、普通に恋愛をしたりすることもできないのだなあと思っていた。

 しかし、貯金は着々とたまっていった。贅沢の仕方がよくわからなかったので、はじめはとりあえず普段の食材をワンランクアップすることにした。

 お金があるというのは慣れなかった。使い道も最初はよくわからなかった。

 光流さんの愛人になって1年。ようやく懐があたたかいのに慣れ、欲しいものというものもできた。ネット通販で、外国の珍しくて少し高級なものを買うのがお気に入りになった。

 梨沙はこの生活にだいたい満足していた。光流さんは優しいし、夜の相手をするのも初めこそ苦手だったが最近はむしろ好きかもしれない。

 ただ一つ、この二つ目の仕事を誰にも知られてはいけないということだけが欠点だ。
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