その結婚、取扱い注意!
「あ、俊之さん。約束の時間が過ぎてるわ」

松下さんは華奢な腕時計を見ると、婚約者に言う。

「これで失礼するわね。じゃあ」
「失礼します」

西條さんは私たちに頭を下げると、松下さんの腕を取って通り過ぎた。

「湊、驚いたね」
「まあな」

松下さんは湊の大学時代の彼女だった人。元カノが結婚するって聞いて湊の気持ちは複雑かな?

そんなことを考えていると、ふいに頭に手が置かれて髪をくしゃとされる。

「さつき、幸せそうで良かったよ。それが聞きたかったんだろ?」
「そ、そんなことないよ。湊が本気で松下さんと付き合ったんじゃないってわかってるし」

きれいに頭の中をのぞかれた気がして、慌てて取り繕う。
そんな私に湊は笑った。

「映画の時間、大丈夫か?」
「あっ! 今何時っ!?」

スマホの時間を確かめてホッとする。

「大丈夫。焦ったよ」

スマホをバッグに戻した手を湊の手が握る。恋人つなぎに顔が緩むのを感じながら、エレベーターホールに向かった。

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