極上エリートの甘美な溺愛

玲華はそんな自分を否定するように、少し上ずった声で問いかけた。

「この会社で働きたいの?」

「ああ、業界で売上が一位ってのもあるけど、手がけている自動車それぞれに魅力があって、俺も開発チームに入りたいんだ」

「そっか、夢があっていいね」

「玲華には?夢、ないのか?」

「……ないから困ってる。親は、美大に行って欲しいって思ってるのかもしれないけど」

玲華はごまかすように笑い、視線をさまよわせた。

将来の夢をしっかりと持っている将平に対して、未来に対して何も考えられない自分が恥ずかしくて仕方がない。

将平とは同い年だというのに、自分が中途半端で曖昧な、ひどく幼い人間のように思えて黙り込んだ。

その時、ふと、ショールームの奥で、撮影が行われているのに気付いた。

見ると、玲華の父、葉山理市が自動車の撮影をしていた。

大勢のスタッフに囲まれ、真剣に写真を撮る父を見て玲華は言葉を無くし驚いた。

それまでの曖昧な笑顔から一気に硬い表情に変化した玲華に気付いた将平は、戸惑いながら声をかける。

「どうした?」

「あそこ……父さん。写真を撮ってるの、父さんなの」

「え?葉山理市じゃないの?え?父さん?」
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