極上エリートの甘美な溺愛

その当時、写真家として有名な父と、画家を目指して美大で学ぶ兄を持つ玲華は、自分が美術的、創造的な才能を持ち合わせていないこと。

そして、その方面に興味が持てないことで家族の中で自分が浮いていると思い、悩んでいた。

友人たちが次々と進路を決めて、志望大学も絞り込んでいくなか、玲華は両親が自分にも美大へ進んで欲しいと思っているのではないかと、進路を決めかねていた。

たとえ両親に願われても、自分には美術的な才能はないと思っている玲華がその願いを叶えられるわけもなく、ただ悩むばかりだった。

予備校に通い始めてはいたけれど、それすら億劫で、なにもかもが面倒になっていた。

才能あふれる家族に馴染めないと感じる自分を隠す事が、だんだん辛く感じるようにもなっていた。

だからといって、特に自分が進みたい未来を見つけ出すこともできない。

時間を持て余す日々は、玲華にとっては苦しいもので、この先どうなるんだろうという不安ばかりが募っていた。

そんなある日の放課後、玲華は予備校をさぼり、ぼんやりとしながら校庭の隅にあるベンチに腰かけていた。

すぐ側では野球部が一生懸命練習をしていて、その中には同じクラスの男子もいた。

受験を控えた三年生にとっては引退が近づいていた時期。

まるでそれを惜しむように必死で打球に食らいつく様子は玲華の目に新鮮に映り、同時に羨ましくもあった。

夢中になれるものがあれば、あんなに汗をかいても、そしてあんなにユニフォームが泥だらけになっても素敵な笑顔を作れるんだな。

玲華には、目の前の出来事全てが刺激的で、思いがけず、嫉妬にも似た想いに囚われた。

「……いいな」

そんな言葉がこぼれるほど、玲華の心は沈んでいた。

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