月夜のメティエ

 分かったことというか、はっきりしていることは、あたしは14歳の時もいまも、奏真が好きだということ。でも、彼は他の人と結婚する。それを壊すことはできないし、そんな気も無い。

 分かってることじゃないか。いままでだって、奏真は居なかった。その日々に戻るだけじゃないの。なんてことない。1足されて、また1引かれるだけ。あたしの中の電卓は0と表示された。ただ、それだけだよ。

 同級生として、笑って祝えば良いじゃない。


 特定の人からの着信やメールを、1日のうち確認する回数が減ってきた頃。
 思い出したかのようにその人から連絡が来る。それはなんだか、悪魔か妖怪が、陰からあたしを見ているんじゃないかと思うほどだ。

 鳴ってる。画面には奏真の名前。
 ちょうど部屋でビールを開けたところだった。また部屋で晩酌。だって暇なんだもん。

「……もしもしー」

 明るく明るく。あたしが暗くなってたんじゃ、相手も気持ち良くないじゃないの。

「あー……俺。久しぶり」

「久しぶり」

 どの程度連絡が無ければ「久しぶり」という言葉が当てはまるのかな。分からないけど、半月くらいは奏真と連絡を取っていなかった。短いの? それって長いの。どうなんだろう。あの、音楽教室での出来事から数えたらそんなもんだ。

「この間は、悪かった」

 そう言われて、半月ってなにを忘れるにも足りないなと思った。忘れられることじゃないけど。そんなことあったっけ? ってとぼけられれば良いのにな。

「ああ、全然。いいよ別に、そんな」

 そう言うのが、精一杯だ。

「なんか、調子狂った」

 その言葉がなんだか悲しい。声を聞いて、ドキドキしてるのに、辛さは変わらない。
 謝罪するための電話なのかもしれない。それなら受け取って、あとは笑って話したい。せっかく連絡をくれたんだから。

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