レンタル彼氏【完全版】
伊織の背中からは、近寄れない雰囲気を醸し出している。
話かけることも、触れることも気が引けた。
だから、黙って後ろをついて行くしかなかったんだ。



しばらく黙ったまま、歩いていると、ふと伊織が足を止めた。
私もそれに倣って、足を止め伊織が見てる方に顔を向ける。



「………」


そこは潰れてしまってるのか、窓ガラスは割れて、木の扉もひびが入っているカフェがあった。
何かが出てきてもおかしくないような、古ぼけた店。


伊織は黙って、そのお店を見つめてからまた歩き出した。
私は少しそのお店を見ながらも、また伊織の後をついて行く。



「泉」


伊織が急に立ち止まって私を呼んだけど、あまりに急だったから私は伊織に突っ込んでしまった。



「…な、なにっ」


伊織の背中にぶつけた鼻をさすりながら、私は返事をした。
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