[短編]One-Way ticket~仁の場合~
「いらしゃいませ。」

客も帰り始める時間帯にその客はやってきた。


流れるようにカウンターの一番奥の席に座って
俺を見る。


「こんばんは。・・・お通しになります。」


俺はお通しを彼女の前に置いて微笑んだ。
まぁ、営業スマイルなんだけどね。


「・・・いつもの下さい。」


形のいい唇がゆっくり動く。
口まである前髪を払いながら彼女は俺を見る。


胸が鳴った。
俺の雄の細胞全体が彼女に向かった瞬間。


「はい。少し待っててください。」


俺はカウンターでジンぼボトルを取った。


彼女の言う「いつもの」はジントニック。


はじめてきた時は楊貴妃だった。
しかし
二回目からはジントニックしか頼まなくなった。


名前も知らない彼女は俺の中では
「ジンの女」
となっている

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