『世界』と『終』  ——僕がきみを殺したら——
西森とバスに乗って、市の中心街にむかった。

二人掛けの座席に並んで座り、西森は僕の肩にもたれて手をつないだ。

バスのやわらかな振動が、僕と西森をつつんでいる。窓の外を街の景色がながれる。


快とも不快とも感じない。
西森の手はひんやりと小さくてやわらかく、体には重さがないようだった。


「なぜこうする」

「こうしていられるのも、あとわずかだから」



途中乗りこんできた初老の女性が、僕らにほほえましげなまなざしをむけた。


僕の望みはと胸のうちでつぶやく。

この少女の首を折ることなんです。


子どものころ、めったに与えられない大好物をまえにジレンマに捕われた思い出はないだろうか。

食べたい、けれど食べるのはもったいない。

快楽はいちどきりで、食べたらそれでおしまい。


それが僕にとっての西森だ。


細い首を指でなぞり、腕を巻きつけ、しめる感触を想像する。
頭と首に逆方向から同時に力を加え、ねじる力に耐えきれず髪がぱっと広がり、首が小枝のような音をたてて砕ける———



ごくりと、のどを鳴らす。


———快楽はただ、いちどきり。
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