Sweet Room~貴方との時間~【完結】
 中野先輩と並んで歩いていると、後ろから名前を呼ばれた気がした。それは、この何カ月も聞きたい声だった。私だけが知っている優しい声。

「奈央美」
 足を止め、振り向くと息を少し切らした涼太がいた。無意識に「涼太」と呼んでいた。
「杉山さん、奇遇ですね。これから2人で食事行くのですが、杉山さんもどうですか?」
 中野先輩は、涼太を挑発するように言った。
「いえ。お仕事の話もあるでしょうから、僕は遠慮させていただきます」
 涼太は中野先輩から私の方へ視線を動かした。

「奈央美、12月25日、一緒に桜を見た公園に来てほしい。仕事が終わったあとでいい。何時でもいいから」
 それだけ言って、涼太は背を向けた。涼太の後を追おうと足を踏み出した時、中野先輩に腕を掴まれた。

「今は、俺に時間をちょうだい」
 そうだ、今の私が涼太の所へ行っても駄目だ。また、傷付けてしまう。
「わかりました」

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