縛鎖−bakusa−
耳に残る鎖の音。
『ヤラレルヨ…』と囁く湿った声。
リップグロスのキャップを閉めると同時に、記憶の中の彼の忠告にも蓋をした。
今、頭にあるのは期待だけ。
恋の始まる予感だけ。
―――――…
待ち合わせの40分前に自宅を出ようと玄関にいた。
靴を履いていると携帯電話が鳴り出す。
急いでバックから取り出し見ると、着信は潤一先輩から。
「も、もしもし…」
「千歳ちゃん?俺、潤一。
今バイト上がって家に帰った所なんだ」
「お疲れ様でした」
「ありがと。それでさ、あ゙〜悪いんだけど…
野暮用で家から出られなくなって…」
「え……そうですか…
それじゃあ映画は中止ですね…分かりました…」
物凄くガッカリした。
張り切っていた分凹みも大きく、電話口でうっかり溜息をついてしまう。
すると慌てた声で潤一先輩が言った。
「ごめん!マジごめん!
映画は行けないんだけどさ、俺…会いたいから…
嫌じゃなかったら…これから俺の家に来ない?」