縛鎖−bakusa−
「でも、先輩は用事があるんですよね?」
「あ、アレなんだ。大した用じゃないんだ。
ガス会社の点検が入るから家に居ろって言われただけ。
それが済めば自由。でも何時に来るか分からない。
嫌…?俺の家に来るの嫌?」
嫌だなんて言える訳がない。
会いたいし…行きたい…
けど…
さっきしっかり閉めた筈の記憶の蓋がズズズ…と開けられた。
蓋の中からあの声がズルズルと這い出して、私を惑わせ様とする。
『ゼンブウソ…ヤラレルヨ…』
不安になる私。
しかし受話口からは潤一先輩の優しい声がする。
「千歳ちゃんに会いたい」
そんな言葉をくれたら…
やっぱり嬉しくて「行きます!」と答えていた。
彼の忠告を無視する。
私は潤一先輩を信じたい。
通話を切った後、トンネルを走り抜けバス通りに出た。