狂妄のアイリス
「どなたがご入院されたんですか?」


 店員は悩む青年を助けようと、贈る相手についても聞く。


「母です」


 青年は口を押さえていた手を離し、端的に答える。


「そうですかー。お母様でしたら、この辺りの~」

「これって、どうですかね?」


 母親の見舞いならと話しを店員の言葉を遮って、青年は出されている花ではなくガラスケースの中に入った花を指さした。


「こちらですか……?」


 予期していない方向から出された答えに、店員はガラスケースを覗きこむ。

 青年が指さす先にあったのは、刺の抜かれた赤い薔薇だった。

 それも鮮やかな紅ではなく、黒に近いほど深い色をした赤い薔薇。

 いっそ毒々しくもある。


「あー、薔薇ですかー。一応、刺抜きはしてありますけど……」

「ダメ……ですかね?」

「うーん」


 今度は店員がうなり、渋い顔だ。
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