狂妄のアイリス
「よし、出来た」


 綺麗にバンソウコウが貼られて、ゴミがゴミ箱に捨てられる。

 指先から私の顔へと視線を上げたおじさんの蒼い瞳と目が合う。

 私の傷を手当てした優しい手が差しのばされて、私の頬にふれた。

 傷口を流水へと導いた手は冷たくて、私は首をすくめる。


「どうして俺が怒ると思う?」


 おじさんの指先が私の濡れた目じりをぬぐって、輪郭をなぞるように下がっていく。


「これぐらいの怪我、死にはしない」


 おじさんの手が、私の首筋にふれる。

 タートルネックの中に忍び込む手が脈を測るように密着して、私は硬直する。


「生きててくれてよかった。本当に」


 腕を回されて、私はおじさんに抱きしめられていた。

 おじさんの胸に抱かれて、痛いほど強く抱きしめられて、私は生を実感する。

 悪癖だった。
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