狂妄のアイリス
「待ってなさい」


 私をソファーに座らせたままおじさんは救急箱に取りに行く。

 水で洗い流されて冷えた左手は、すっかり血が止まってしまっていた。


「手」


 救急箱からモイストヒーリングのバンソウコウを取ってきたおじさんは、私の前にひざまずいて短く言う。

 私が左手を差しだすと、おじさんの大きな手がそれを受け取った。

 椅子に座る女とひざまずいて手を取る男。

 このまま手の甲にキスをしてくれないかなって思ってみても、されるわけがない。

 でも、少しうやうやしいような仕草に胸が熱くなる。


「おじさん……怒ってる?」


 憮然とした表情で、おじさんは私の指にバンソウコウを貼る。

 指先は少し貼りにくいようで、少し苦戦していた。


「ねえ」


 私が聞いても、おじさんはバンソウコウに夢中で答えてくれない。

 無言がますます不安をあおる。

 自傷癖のあるような娘、やっぱりおじさんは嫌なのかな。

 やっぱりいらないと、放り出されたら、私は……
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