狂妄のアイリス
 二階にあるおじさんの部屋にも行ってみる。

 きっちりと閉められた扉の前に立って、ノックをしてみる。


「…………」


 返事はなかった。

 お互い立ち入らない約束をしている私室。

 でも、私の部屋に鍵はついてない。

 たぶん、おじさんの部屋にも。

 そっと、ドアノブに手をかける。

 でも、さわっただけだった。

 鍵がかかっているか、確かめることさえ出来ない。

 それを確かめることは、おじさんへの裏切りになりそうで震える。

 ドアノブから手を離して、扉にもたれかかる。

 扉はひんやりとしていて、触れた頬が冷たくなっていく。

 おじさんも、私の部屋には入らない。

 扉を開けることさえしない。

 毎朝、起こしてくれるときも扉越しだ。

 だから、私はこうして扉にもたれ掛かるしかない。
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