狂妄のアイリス
「日向さん、気づいてたんだ……」


 そっと袖をめくると、さっきの傷がまだ赤々と残っている。

 私は日向さんがくれたバンソウコウをそっとはがして、傷に貼った。

 その上に滴が落ちて流れる。

 空からの雨じゃない。

 私からの雨だった。

 涙が頬を伝うけど、悲しいわけじゃない。

 私はやっと、自分の気持ちに気付けた気がする。

 どうして自分で自分を傷つけるのか。

 帰ろう。

 お母さんが待っている家に、帰ろう。

 缶とバンソウコウのゴミを捨てて、私は日向さんのマフラーを巻き直す。

 日向さんが、私に力を貸してくれているようだった。

 暗くなっていく空とは裏腹に、気分は晴れやかだった。



 この後の悲劇を知るよしもなく――――……
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