狂妄のアイリス
 本当に私はおじさんのことを何も知らない。

 名前も年齢も日本人なのかも知らない。

 近所の人は私とおじさんを叔父と姪と思っているけど、私はおじさんをどう思い、おじさんは私をどう思っているんだろう。

 ふわふわとした、綿菓子みたいな心地がする。

 お菓子をあげるからついておいでって、誘拐されたわけじゃない。

 けど、それに近い心地がする。

 私にとっておじさんは、山積みのキャンディーなんかよりもずっと甘い誘惑だった。


「ごちそうさまです」


 食べ終わって手を合わせると、おじさんの食器と一緒に器を片付ける。

 先に食べ終わっていたおじさんは、新聞を読んでいた。


「時間、大丈夫なの?」

「ああ……そろそろ出るよ」


 そう応えるのに、新聞に夢中で顔も上げない。

 私は食器を台所に運んで、スポンジに洗剤をつける。

 何度かスポンジをもみ込んで、泡をたくさん出す。

 それで、おじさんの食べた食器と自分の食べた食器を洗い始める。
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