狂妄のアイリス
「やめて」


 涙を流しながら、私は樹を見上げる。

 決して抗うことの出来ない幻覚の手が、私に伸びる。


「いやあああああああああ!」


 自分の喉から絶叫がほとばしる。

 顎が外れそうなほど口を開け、頭を抱えて悲鳴を上げる。

 気持ち悪かった。

 胃の中身を全部ぶちまけて、内臓を抉り出して、全てを吐き出してしまいたかった。


「あああああああああああああああああ!」


 止まらない悲鳴、終わらない悪夢。

 目を閉じれば樹は見えない。

 そう分かっていても私は目を閉じられなかった。

 樹は頬笑みのまま、私を抱きしめる。
 温もりも感触もなにもない体なのに、視覚と聴覚だけが樹を感じていた。

 耳元に樹の息遣いが聞こえる。


「愛してるよ、蛍」


 殺してしまいたくなるぐらい、気持ち悪かった。
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