少女狂妄
 樹は私の見る幻覚だった。

 樹の姿は私以外の誰にも見えないし、樹の声は私以外の誰にも聞こえない。

 樹は私にとって狂気の象徴だった。


「いやぁ……」


 その幻覚が、シンクを越えて私に近づいてくる。

 私は背を向けることも出来ずに、ただ後ずさる。

 膝から力が抜けて、尻もちをつく。

 発熱して公園で倒れたあの時、私はなんの夢を見た?

 考えないようにしている、過去の記憶。

 夢の続き。


「また会えてくれしいよ。蛍は、嬉しくないみたいだけど」


 三日月形の唇が私を嘲る。

 樹に見つめられて、全身の傷が痛む。

 私は死ねなかった。

 家族と一緒に死ねなかった。

 ただ自分で自分を切り刻むだけで、あの殺人鬼は私を殺してはくれなかった。

 家族を殺した犯人は未だ捕まらない。
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