狂妄のアイリス
「こういうのは、久しぶりですね。最近は安定してると思っていたのに……」


 男と同時に駆けだしたはずの青年は、少女と男から少し離れた場所で立ち止まっていた。


「時期が悪いんだろう。もうすぐ、一年だ」

「…………」


 男の言葉に、青年の眉間にシワが寄る。

 男を睨みながら少女に近づくと、膝を折る。

 男が抱えた少女の髪をかき上げる。

 隠れていた顔を見ると、青年の眉間のシワは取れた。

 愛おしそうに少女を見つめる。


「蛍ちゃん、あんまり傷つけちゃダメだよ」


 気を失った少女に語りかける。

 少女の顔は蒼ざめ、触れると氷のように冷たかった。

 その凍りついた体に自分の体温を分け与えるように、青年はそっと額を寄せた。

 唇が触れ合いそうなほどの間近で、肌を重ね合わせる。
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