狂妄のアイリス
 地面に落ちた少女の手を取ると、指先も蒼くなっていた。

 その色とは対照的に、赤い傷が無数についている。

 叫びながら暴れたのか、倒れた時に傷つけたのか、それとも自分でつけたのか。


「俺はアンタなんか大っ嫌いだ。死ねばいいと思ってる。殺してやりたいと思ってる」


 血を吐くような声で憎しみを口にする青年が、少女から男に視線を転じた。


「でも――蛍ちゃんは、アンタを選んだ」


 気を失った少女の頬には、涙の痕があった。

 その痕に、少女の物ではない涙が降って流れる。

 屈辱に震える青年が、男に頭を下げた。


「蛍ちゃんのこと、よろしくお願いします」

「日向くん……」


 下げられた頭に男が手を伸ばすと、それは乱暴に弾かれた。

 再び青年は男を睨みつけるが、その瞳は濡れている。


「俺じゃ、朱音を救えなかった!」


 ――朱音(あかね)……?
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