狂妄のアイリス
 手のひらと、肘に近いこの部分はなんて言うんだろう。

 手首よりも心臓に近いその場所に、ぱっくりと食虫直物のような傷口が開けられた。

 今度はそこに、爪を立てる。

 無理やり口を開けて虫を喰わすように、突き立てる。

 痛みで痙攣を起すように引き攣る腕を抑え込んで、自分の爪に自分の血と肉をこびりつかせていく。

 それに飽くと、血まみれの手で水道の蛇口を一気に開いた。

 勢い良く流れ出す水が、血溜まりを薄めていく。

 全開にした水流は強く、血の混ざった飛沫が舞う。

 その滝のような流れに傷口を差し出すと、水がえぐるように傷口を叩く。

 攣るような痛みに、体が逃げ出そうとする。

 それでも私は逃走を許さない。

 洗われた傷口の赤と白のコントラストと苦痛に笑む。
< 59 / 187 >

この作品をシェア

pagetop