狂妄のアイリス

青年

「樹――どういうことなんだ?」


 ギィギィと、ブランコの鎖が耳障りな音を立てる。

 児童公園のブランコに腰掛けるのは、ピーコートの青年。


「さあ? 僕が聞きたいぐらいだよ。日向」


 青年を日向と呼んだのは、樹と呼ばれた人影。

 青年と同じくブランコに腰掛けていたが、こちらはただ座るのではなく少し揺らして遊んでいる。

 そのたびに、ギィギィと鎖が擦れて音を立てていた。


「蛍ちゃんは、そういう子じゃなかったはずだ。それが、何故、急に」


 困惑ぎみの青年は、人影の方を見ようとはしない。


「別に、悪いことじゃないだろう。蛍が自覚しなきゃ治療も出来ないんだから」


 ブランコを揺らす人影は、ニヤニヤと笑う。


「未だに、僕のことをただの幻覚だと思っているしね」
< 75 / 187 >

この作品をシェア

pagetop