狂妄のアイリス
第五章「もうひとつのきおく」

狂妄

 女の子が歩いている。

 赤いランドセルを背負った、ショートカットの女の子。

 その後をつけるものがいる。

 白地に黒と茶色のブチをつけた三毛猫が、女の子を追っていた。

 にゃあという声に気がついて、女の子は振り返ってほほ笑む。

 歩みを止めないながらも緩め、猫を追いつかせる。

 三毛猫は女の子に追いつくと、その足の動きに合わせてまとわりついた。

 足の周囲を右に左にくねくねと歩く。

 足にまとわりつく毛皮の感触に微笑んで、女の子は猫が歩きやすいように歩幅を広くした。

 足取りは軽く、ランドセルの中で筆箱が舞って音を立てる。

 歩きに合わせて鳴る音はまるでリズムを取っているようで、女の子の足はますます軽くなった。

 猫もしっぽをピンッっと立てて甘えている。
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