狂妄のアイリス

記憶

 クリスマスも間近な悲劇から年をまたぎ、梅雨も明けた初夏。

 少女はベッドの上でエアークッションを潰すように、プチリプチリとブリスターパックから錠剤を押し出していた。

 本来なら、毎食後に飲まなければならない各種治療薬。

 それを飲んだふりをして溜め込んでいた。

 秘密の隠し場所にも納まりきらなくなり、だからこうして少女はシーツの上に錠剤を出す。

 たくさん溜まった錠剤の全てを出すと、こんもりと小さな山が二つ出来る。

 錠剤の山と、ゴミの山。

 少女は錠剤の山に手をつけた。

 最早、自傷行為ではなく自殺行為。

 白や橙、ピンクの錠剤。

 白と緑を組み合わせたカプセル。

 色とりどりの薬は、まるでジェリービーンズみたいに可愛いと少女は笑う。
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