狂妄のアイリス
「あああああああああ!」


 少女は再び絶叫する。

 陸に揚げられた魚のように跳ねて、ベッドのパイプに頭を打ち付ける。

 額が割れて、少女の顔に一筋の血が流れた。


「ああああうあああああああああああああああ!」


 首から点滴の針が抜けて、首も血に染まる。


「ああああああ!」


 白い肌も、白い拘束衣も、白いベッドも、赤く染まっていく。


「――――!」


 絶叫は奇声に代わり、それが途絶えた時、少女は自分の肩に噛みついていた。

 犬歯が深く食い込み、白い布越しに血が滲む。

 再び看護師たちが駆けつけて、顎をつかまれる。

 肩から引き離そうとする力に抵抗して、より力が加えられ血が広がった。

 少女はまだ気づいていない。

 少女と白衣と幻覚しかいないはずの集中治療室に、私服の男がいることを。

 蒼い目をしたその男は、部屋の隅から少女の様子を眺めていた。
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