狂妄のアイリス

少女

 切りつけた目から流れる雫を手のひらで受け止める。

 手から零れて傷をなぞり、床へと落ちる血色の涙。

 眼窩の中で瞳をうごめかせるたびに、鋭い痛みと血が溢れた。

 カッターナイフを握り締めた手は痛みで震えて力が入らない。

 手から滑り落ちた刃は、足を傷つけた。

 そんな中で、私は引き攣るような笑みを自覚する。

 血の涙を流し、私は意識を失う。

 そして、次に気がついたとき、私は手当てを受けていた。

 くるくると包帯が綺麗に巻かれていくのを、私は不思議な気持ちで眺めていた。

 右の目は包帯で覆われて、左目しか自由が利かなかった。

 視野が欠けて、距離感が上手くつかめない。

 私はただじっと包帯を巻く医師の手を眺めていることしか出来なかった。
< 98 / 187 >

この作品をシェア

pagetop